うっせぇわ

「ししみさん、うっせぇわ聴いてる?」モヒカン先輩が言った。
 ええ、聴いたことあります。と僕は答える。うっせぇわか。突然聞かれると不思議な気持ちになる。
 うっせぇわ。うっせぇわ。インターネットで聴いたことがある。Vtuber界隈でちらほら耳にした。
 流行っているんだろうか。POPが好きなモヒカン先輩が僕に聞くくらいだから流行っているのだろう。
 うっせぇわ。たしかに聴いたことがある。Alice In Chainsも聴きます。System Of A Downも好きです。Foo Fightersも。
 めてお☆いんぱくとも聴きます。ようこそジャパリパークへも好きです。Tank!も好きです。
 でも、うっせぇわ。うっせぇわについて、話したいことが僕の中にまるでなかった。僕はうっせぇわについて何とも思っていなかった。主な活動拠点がインターネットの歌い手がオリジナル曲を作ってちょっとバズっているだけなのだろうなと思っていた。
「俺の子供が家でうっせぇわうっせぇわって歌っててさ、腹立つよね、ふふ」とモヒカン先輩は言った。
 それはたしかに腹が立ちますね、と僕は脳死になって答える。うっせぇわか。命に嫌われている。はどうなったんだろう。
 もう全然閉じコンじゃないボカロ界は今どうなっているんだろう。もうボカロpとか言わないんだろうか。音楽を作ってバズったらすぐに商業ラインに乗るようになって、音楽を作ることが特別って感じじゃなくなって久しい。10年前くらいに有名だった作曲者はみんな自分のCDをちゃんとしたレーベルから出して配信されてボカロを使わなくなって自分で歌い始めて、ラジオでボカロネイティブ世代と紹介されたAdoさんがうっせぇわを歌って、それをモヒカン先輩の子供たちがネタにして笑っていて、こういう価値観が今の若者のロックなのかなって僕の感性がすっかりくたびれている。おっくせんまんを歌っていたゴムはどこへ行ってしまったのだろう。マスメディアのカウンターカルチャー的な立場だったインターネットがいつのまにかメインストリームになっていて、Youtubeで生活できる人がたくさん出てきて、僕はもうテレビを見なくなって、だけどインターネットに飽き始めている。自分にぴったりのコンテンツがどこかにあるはずだなんて探す必要もなく僕の好みはおすすめにずらりと並んでいてすべてを消費するだけで3年はかかりそうで、パソコンの前に座ってただ動画を見ているだけで人生はたやすく終えることができそうだ。自然に帰りたいわけでもなく最新のテクノロジーを否定したいわけでもないのに子供の頃夢に見た時間を持て余して前は全然好きじゃなかったBeatlesとかを今になってわくわくしながら聴いている。うっせぇわ。うっせぇわか。
 考えすぎた結果なにもわからなくなりあずきちゃんのOPをぼうっと見ている。